高い耐震性能・優れた排水性能を共に備えた箱型擁壁工法は全国各地で採用されています。
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剛構造もたれ式擁壁との変形挙動の比較

部材に生じるせん断応力

L2地震動で剛構造もたれ式ようへきの擁壁変位が最大となった時のせん断応力分布図を以下の図に示す。擁壁コンクリート部に応力集中が生じ、擁壁中段から下段にかけて640~800 kN/m2のせん断応力が発生している。変形が小さい分、逆に部材応力が大きく発生し、仮に擁壁コンクリート部の許容せん断応力を360kN/m2(設計基準強度21000 kN/m27)とすると、それより大きなせん断応力が生じたことになる。

振動実験の加振ステップ
擁壁変位最大時の剛構造もたれ式擁壁のせん断応力(L2地震動)



同様に箱型擁壁の擁壁変位最大時のせん断応力分布図を下に示す。剛構造もたれ式擁壁と比較して擁壁に生じるせん断応力は小さく、最大でも160 kN/m2 と剛構造もたれ式擁壁の約1/5に収まる。擁壁部には応力集中は認められず、柔構造の箱型擁壁では擁壁部分に変形が生じながら、その分、擁壁部の内部応力が緩和されている。

振動実験の加振ステップ
箱体変位最大時の箱型擁壁のせん断応力(L2地震動)



基礎地盤に作用する鉛直土圧

最後に、L2地震動で擁壁基礎部分に生じる箱体変位最大時の最大鉛直土圧を以下の表に示す。剛構造もたれ式擁壁では、擁壁基礎部分に600~700 kN/m2 の鉛直土圧が作用しているのに対し、箱体擁壁では40~150 kN/m2 と剛構造もたれ式擁壁の1/4以下の鉛直土圧となっている。

位置 鉛直土圧(kN/m2 備考
剛構造もたれ式擁壁 箱型擁壁
つま先 595.0 147.0
かかと 910.0 40.4

このように鉛直土圧が低減されたのは、箱型擁壁の柔構造に起因すると考えられる。擁壁に発生するせん断応力と同様、基礎地盤に作用する鉛直土圧も剛構造もたれ式擁壁などと比較すると小さく、支持力確保の点でも、箱型擁壁は剛構造もたれ式擁壁より優位であることが解析から示された。

箱型擁壁の設計は、剛構造のもたれ式擁壁の方法を踏襲して作られているが、将来的には今回認められた箱型擁壁のフレキシブルな構造の優位性をより積極的に取り込んだ、独自の設計方法が開発できる可能性もある。
また、今回の解析では、基礎地盤が比較的堅固な場合のみを扱ったが、これほどまで良好でない条件の基礎地盤では、低いレベルでバランス良く作用する箱型擁壁の方がより有利になることも考えられ、今後とも、箱型擁壁と剛構造もたれ式擁壁の地震時挙動を対比させながら、さらに検討を進めることが望ましい。